私たちの祖先は得がたい経験から、住まいに適した土地を熟知し、危険度の高い土地には「危険地名」を残していった。それが昨今、科学技術への盲信からか全く生かされていないのはまことに残念でならない。
例えば今回の集中豪雨で被害を受けた土地は、熊本県「水俣」市であり、鹿児島県「湧水」町であった。古来、「股」「枝」「岐」は河川が合流、または枝分かれする地帯を指し、「湧水」は正しくそのママの地名である。20年前の夏、茨城勝田市「枝川」付近(現ひたちなか市)の那珂川が氾濫、多数の家屋が二階まで水没したことがあった。治山治水は国家的プロジェクト。台風被害の多い九州では応分の対策はあったろうから、行政の怠慢を指摘するつもりはないが、大災害とは50年とか100年に一度に起こることもまた事実。リスクは身近にあることを忘れてはならない。
「危険地名」については研究者も多く関連出版物も少なくない。だが、「竹」「多気」「田切」が傾斜地に走る水流を意味し、「歩危」「保木」は崩壊地帯、「梅」や「埋」が埋没しやすい地域だと知っていて損はない。被災者が口々に「まるで川のようだった」と嘆くのも無理もない。そこは、「何時かは川だったこともある」地帯ではなかったろうか。
栃木県や茨城県に多い「阿久津」や「圷」という地名は時に姓に転化されているが、本来は河川流域の「悪土」(あくつち)の意味とされ、「圷」という字は地面より低い土地を意味する和製漢字だと思っている。「峠」が山の上下を表すように、「圷」に対して平地を指す「坪」という字があり、さらに高い土地は「塙」と呼ばれてきた。つまり「坪」や「塙」は「安全地名」ということになる。
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